セーター
"コンコン"
熱の後は、咳だった。
昔から、ヘネラリーフェは風邪を引くと必ず喉に来る体質で、今回も気管支炎ほどではないものの、断続時に続く咳に苦んでいる。
だがそれも、ロイエンタールの献身的な看病と薬のおかげで大分緩和されてきていた。
そうなると、動かずにはいられないヘネラリーフェ……
ちょろちょろと居間へ現れてはロイエンタールに『病人は寝ていろ』と叱られる有様だ。
とは言っても、ヘネラリーフェを責めるわけにはいかない。
ヘネラリーフェが発熱の所為で公園で倒れた際、ロイエンタールは彼女の熱が下がるまで仕事を休み看病した。
三日ほどで熱が下がると、ヘネラリーフェは『私のことは大丈夫だから、仕事に行って』と、彼を出府させたのだが、誰もいないマンションで一人横になっているのは、正直辛い。
結果、寂しさに気弱になり、帰宅したロイエンタールに付きまとってしまうのだ。
夜、ロイエンタールがマンションに帰宅した気配を察知すると、バタバタと寝室を飛び出して来て抱きつく。
その後も、薄い夜着のままでチョコチョコと彼の後ろを付いてまわり、その度にロイエンタールに一喝される。
叱られても叱られても、だがヘネラリーフェは大人しく寝室で横になってはいなかった。
「どうして大人しくしていられないんだ!?」
溜息を吐き吐き言うロイエンタールに、普段では絶対に聞かれないだろう甘えた言葉が、可憐な桜色の口唇から零れる。
「だって、一人でいるの、嫌なんだもん」
この言葉に、ロイエンタールは絶句せずにはいられなかった。
要するに、彼女は寂しいのだ。が、それをこうも素直に言葉にするということは、その寂しさがロイエンタールが考える以上のものだろうことを察するのは容易である。
結局、折れたのはロイエンタールだった。
「寝室ではなく、ここ(居間)にいてもいいから、大人しくしていろよ」
彼女に『大人しくしている』ということをしつこく念を押してJaと言わせると、ロイエンタールはひとまずヘネラリーフェを座り心地の良いソファに座らせ、寝室のクローゼットから見るからに柔らかそうなセーターを持ってくる。
「寒くないように、これでも来ていろ」
渡されたのは、ざっくりと粗めに編まれたセーター。無論、ロイエンタールのものだ。
だからこそ、それはヘネラリーフェには少々、いや、おおいに大きくて、袖から手は出ないやら、丈も長いやらという代物であった。
「ロイエンタールの香りがする」
大きすぎるセーターに埋もれるようにしながらヘネラリーフェが甘く呟く。
ロイエンタールはフっと微笑むと、彼女の膝に自分のガウンを掛けてやる。
「暖か~い……」
ロイエンタールの香りと温もりが優しく、ヘネラリーフェはそれらに包まれながら、ロイエンタールが不器用な手付きで食事の準備をするのを眺めている。
そして、いつしかトロトロと眠ってしまったのであった。
Fin
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*かいせつ*
『接吻』の続編です。
というか、ロイエンタールの大きなセーターをヘネラリーフェに着せたいが為だけに書いた作品です(爆)
ロイエンタールのセーター……いいなぁ、私も欲しい(笑)
2004/02/16 かくてる♪ていすと 蒼乃拝