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Winter comes around

うずくまるハトと 凍る街路樹。
急ぎ足の誰か 広場を抜けて・・・。

惑星フェザーン、午前5時。
軍用コートの襟をしっかりと合わせて、男が足早に12月の街の石畳を踏む。
仕事帰りの彼は、親友からの朝食の誘いさえ断って、黙々と歩き続ける。
近道をしようと広場に向かった彼の足が、止まった。
ちょうど、広場の中央に当たる場所で、数人の作業者が働いている。
普段の彼であれば、一瞥した後、再び歩き始めるか、無視するかのどちらかであっただろう。
その彼の色の異なる両の目が、一点を見つめて静止した。
それは本物のモミの木を使った大きなクリスマスツリー。
作業者達は、使命を終えたそれを解体していた。
ツリーに飾られている赤い林檎。
同じくらい鮮やかな赤のコートを羽織った女性の笑顔が、華やかに浮かんで・・・・消えた。
「・・・・・リーフェ」
少し前の記憶の中、彼女の声が、ロイエンタールの脳裏を掠めていく。
それは、未だ彼女が自由惑星同盟という国家に所属し、戦争という言葉とは無縁であった、幼い幸せだった頃の思い出。
「ふふっ・・・あんなに大きなツリーを見ると思い出すわ。昔ね、まだ私が義父の腕にぶら下がっていられた頃ね・・・・・同じような大きな大きなクリスマスツリーが、ハイネセンの公園にもあったの。ほら、あれって、天辺に大きな金色の星が飾ってあるじゃない?私ね、義父に"あれが欲しい!"って、泣いて駄々をこねた事があるの・・・・・どうしてあんなものが欲しかったのか、今でも分らないのよ。ね、変でしょう。」
言った後、彼女は笑った。誰にも真似の出来ない美しさ、眩しい笑顔で・・・。
それは過酷な運命を生きる彼女の無意識の我儘だったのだろうか?
思考の小道を彷徨っていたロイエンタールの足が、ツリーへ向かって踏み出した。
男達の間近で立ち止まる。
じっと黙ったまま、降りてきた「星」を見つめた。
何の変哲もない、プラスチックと金メッキの組み合わせ。
しかし、今の彼にとって、それは何よりも価値のあるものに思えた。
作業者の一人が、彼の視線に気が付いて顔をあげる。
・・・・目が合った。
金銀妖眼が、一瞬、固まる。
作業中の男が、「星」を手に言った。
「・・・・・・・何か・・・?」
ロイエンタールは男に向かって、ポケットから引っ張り出した右手を軽く翳す。
「・・・・・いや・・・別に。・・・今日は寒いな」
白い息と共に、男が破顔した。
「そうですね。・・・・・ずいぶん早い様ですが、お仕事帰りですか?」
「あぁ・・・・・そんなところだ」
男は「星」を軍手で拭いながら、無愛想なロイエンタールに笑って言った。
「これ、よかったら・・・・・・・」
そう言って星を差し出す。
ロイエンタールは再び固まった。
男は「星」を差し出したまま、にこにこと笑い続ける。
ようやく我を取り戻すと、咳払いをした後、彼は言った。
「・・・・・・いいのか?」
うまく声が出たのか、自分でも分らないくらいの緊張感。
もちろん、戦闘を控えた時のそれとは全く違ったそれは、彼にとって、初めて味わう感覚だった。
男は笑ったまま、そんな彼に向かって言った。
「かまいませんよ、もちろん。どうせ、処分してしまいますから」
"はい!"と言って勢いよく差し出された「星」が、男の手からロイエンタールの手に渡る。
彼はそれを大切な宝物のように両手で受け取ると、食い入るように見つめて言った。
「・・・・・すまない・・・・・・・・・それと・・・・・」
ロイエンタールを見つめる男の目が、僅かに細められた。親が子供を見守る様に。
「・・・・・・・・・・・・ありがとう」
ポツリと飛び出た最後の言葉。
それから、ロイエンタールは慌てて身を翻すと、来た時と同じく、足早にその場を立ち去った。
その後姿をしばらくの間見送った後、作業に戻ろうとした男が振り返ると、別の作業者が顔を寄せて言った。
「・・・・・・軍人だろ?あれ。知り合いか?」
男は笑った。
「知り合い・・・か。俺は知ってるがね。向こうは知らんよ。俺が兵役で軍にいた頃、あの方に助けて貰った事があるさ。
・・・・・いやぁ、思わぬ所で恩返しが出来たと思ってな。クリスマスってのも、案外捨てたモンじゃないな。しかし、見たか?あの嬉しそうな顔。あんな「星」一つでさ。うちのチビと変わりゃぁしない。巷では何のかんの言われている様だが、俺にはそうは思えなかったな」
そう言い終えると、男は不思議そうに彼を見つめる同僚の肩を軽く叩いた。
「噂ってのは、あてにならねぇモンだって事さ・・・・・うぅ!寒い!!」
男達は白い息を吐きながら、ツリーを撤去する作業に戻った。
「星」を手に家路に向かう帝国元帥は、広場を抜けた2つ目の角を曲がると全速力で走り始める。
1秒でも早く、彼女の輝く笑顔を見たかった。

うずくまるハトと 凍る街路樹。
急ぎ足の誰か 広場を抜けて。

冬がめぐる街のどこかに 君が確かに・・・生きている・・・・

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ありさぁ~~~~~~~ん、最高のクリスマスプレゼントですわ♪
私、結局何も書けませんでした(^^;;)
冬コミ修羅場と大掃除で、体力気力使い果たしちゃったようです。
でもこんな素敵なお話頂けちゃって、ラッキー(*^^*)
もうもう、イラスト描きさんは文章書かせても凄かったのね!!
ともあれ、ありがとうございました。

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