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夏の嵐
 

 皇宮で上級大将以上の者の晩餐会を催そうと言い出したのはラインハルトだった。
 堅苦しくなく、気軽に考えてくれれば良いとはラインハルトの言葉だったが、それでもだからと言って普段着で良いとも言えず、軍人は全員礼装で、そして男女同伴が当たり前なこの世界、女性陣もローブデコルテでの参加となった。
 その日は朝から雲行きが怪しく、蒸し暑い日だった。
 故にヘネラリーフェなどは、ぐったりベッドの上で午後までゴロゴロしていがた、いくら彼女でもロイエンタールに恥じはかかせられないと、健気に起き出して晩餐会の支度を始めた。
 礼装ということで、白を基調とした色合いのノースリーブの衣装に、結い上げた髪のヘネラリーフェの姿にロイエンタールは満足げだ。
 夕刻、厚い雲の合間から微かな暮色を覗かせるの中を、二人は皇宮から回された車に同乗し、皇宮へと向かった。

***

 晩餐会も滞りなく終わる頃、窓ガラスがカタカタ音を立てるほどの強風になり、雨も降り出した。
 そして……
(マズイかも……)
 内心でヘネラリーフェが焦っていたのは、微かに聞こえてくる遠雷の音の所為だった。
 戦場の爆音でさえ平気な彼女が、実は雷が苦手というのもおかしな話しだし、その弱みを知っているのは、今この場にいる人々の中ではロイエンタールだけなのだが、それが、ある意味最悪な状態だと思った。
 つまり、諸提督達にヘネラリーフェの弱みを知られるわけにはいかないと思っているのだ。
 雷に怯えてロイエンタールに縋りつく弱々しくヘネラリーフェの姿を、いくら友好国となった帝国の提督達にでも、見せるわけにはいかなかった。
 雷は少しずつ近付いてくる、
 次第に大きくなる雷の音に、ヘネラリーフェの肩は小刻みに震えだした。
 やがて爆雷が頭の上に落ちてきたような大きな雷の音に、だがヘネラリーフェは必死で薄紅色の口唇を噛み締め、手が白くなるどほ強く握り締めて絶えていたが、その姿がロイエンタールには無性にいじらしく可愛く映った。(人の気も知らずに良い気なものである)
 もっとも、彼以外の諸提督は、あの勇猛果敢な敏腕司令官で、数々の戦場を巡ってきたヘネラリーフェが実は雷ごときを苦手としているとは全く考えていない。
 だから、尚更必死で我慢しなければならないヘネラリーフェは、哀れだった。
 雷は益々酷くなる一方で、ヘネラリーフェはその度に肩を振るわせる。
 さすがにロイエンタールも彼女が可愛そうになり退出を願い出ようと立ち上がろうとした所で、ナイスなタイミングで皇妃ヒルダから『嵐が酷くならないうちに』と神の声にも等しい声が掛かり、ロイエンタールは真っ先に皇帝夫妻に帰宅の挨拶をすると早々に車寄せに向かった。

***

 それは車に乗り込んですぐだった。
 一層大きな音を雷がたてたその瞬間、ヘネラリーフェは悲鳴をあげることもできず、半泣きでただただロイエンタールの逞しい身体に抱きついてきた。
 そのか弱げな様子が愛しくて可愛くて、ロイエンタールは彼女の華奢な肢体を思い切り抱き締め、琥珀の髪を撫でてやるのだった。

 

 

Fin

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*かいせつ*

昨日・今日と、雷が続いたので思い付いた軽~~いネタです。
最近、ネタが貧困だなぁ・・・(溜息)

2004/06/30 かくてる♪ていすと 蒼乃拝

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