夜桜
「ふわ~~ 気持ち良い~~」
頬を幾らか薄紅色に染めたヘネラリーフェが、月光に照らされて白く淡く浮かび上がる満開の桜の木の下に立ち、両手を広げながら機嫌良さげに言った。
呂律が回っていないのは、気の所為ではない。
「飲み過ぎだぞ」
ロイエンタールの苦笑めいた苦言に、ヘネラリーフェは笑った。
「桜は良いわね」
見て良し、飲んで良し。
そう、ヘネラリーフェが今日飲んだのは、桜のリキュール「チェリーブロサッム」を使ったカクテルなのだ。
しかも数杯ではない、数十杯だ。
さしものヘネラリーフェも酔いつぶれるのは当然だろう。
「ね、折角だから、お花見して帰ろ」
闇の中に浮かび上がる桜は、今が盛りとばかりに白く淡く咲き乱れている。
「歩けるのか?」
「や~ね、あれくらいで酔っぱらうわけないじゃない」
と、当人はケラケラ笑い、上機嫌である。
が、歩き出した途端、右へフラフラ、左へフラフラで。足下がおぼつかない。
思うように歩けないヘネラリーフェはついに座り込んでしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
屈んでヘネラリーフェの貌を覗き込むと、なんのことはない、彼女はすっかり眠り込んでいた。
「やれやれ」
ロイエンタールは呟くと、ヘネラリーフェの華奢な躰を負ぶった。
彼の耳元に、ヘネラリーフェの甘やかな吐息が吹きかけられ、些か擽ったい。
その時、
「大好きだよ、オスカー」
思わず振り返ったが、どうやら寝言だったようだ。
だが、ロイエンタールの鼓動は速さを増した。
「まったく、素面の時には言わないくせに……」
周囲には誰もいないのに、照れ隠しにそう呟いた。
背中から伝わるヘネラリーフェの鼓動と温もりが心地良い。
そこ心地良さに酔いながら、ロイエンタールは桜の下をゆっくりと歩いていったのだった。
Fin
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*かいせつ*
夜桜ネタのつもりがタダの酔っぱらいネタになってしまいました(^^;;
2004/04/14 かくてる♪ていすと 蒼乃拝